眠狂四郎は山谷が住処 !? 

“山谷”が寝床だった眠狂四郎…



 衛星波のTV放送へたまたまチャンネルを合わせたら、昔の市川雷蔵主演のチャンバラ映画をやっていた。その映画の題名は「眠狂四郎 勝負」。
 近くの吉原から三ノ輪橋近辺が舞台だという単純な理由からもっと見たい気になった。その後アキバ詣での帰りにDVDを買ってきたのでじっくりと初めから見ることに。

眠狂四郎「勝負」のDVD

 眠狂四郎とは、かつて週刊新潮に連載されていた、柴田錬三郎の人気小説に登場するニヒルな剣客で、転びバテレンと日本人との間に生まれたハーフで、茶髪のチョンマゲを結ったサムライという設定になっている。
 その暗い生い立ちから「円月殺法」という剣術を使って平然と人を斬り捨てる…。無敵で神をも信じぬ孤独な侍という役どころは小説同様劇映画でも同じ人物設定で描かれている。
 この映画シリーズの主人公を演じる市川雷蔵は、歌舞伎役者の道を捨て銀幕の世界へと飛び込んで、一躍映画界のトップスターへと駆け上がりながらも僅か37歳という若さでこの世を去った二枚目俳優だった。

 ストーリーは初詣で賑わう神社から始まり、映画の中には「投げ込み寺」も舞台になっている。荒川区に実在するその妙な名前の寺は『ほていや』から北西方向、15分弱程歩いた距離にある「浄閑寺」にお江戸の昔についた俗称だ。

眠狂四郎 円月殺法

「吉原の遊女の病死した者、心中した者は、お経も読まずお墓もなくて、ただ、お金二百文添えてこの寺に送って惣墓(そうばか)という穴の中に投げ込む…」
 劇中吉原土手の下で屋台店を出す、夜鳴きそば屋の看板娘つや(高田美和)が、勘定奉行の朝比奈伊織(加藤嘉)に吉原の遊女と投げ込み寺との悲しい係わりを話すシーンがあった。

 物語が進むにつれ狂四郎は吉原からほど近い距離にあるこの浄閑寺の庫裡(くり)が住処(すみか)ということが分かってくる。
 映画の中での作り話といえばそれまでだが、山谷に生まれ育った者からすると人気映画のヒーローである眠狂四郎の寝床が“山谷”だったとは何だか嬉しい気がする。
 浄閑寺がある南千住2丁目は山谷地域に区割りされる場所で、昭和36年の日比谷線開業以降、三ノ輪駅周辺は日雇い労働者が集まり手配師が多く出没する寄せ場的なエリアになっていった。

 実は、柴錬の原作には狂四郎の寝床がどこそこにあるというような設定はない。大映が原作者の柴田錬三郎から原作を変えないことを条件に契約していたため、映画の脚本は原作に忠実に書かれることが絶対条件だった。だがそのことが裏目に出て第一作目は失敗作になってしまった。
 二度の失敗だけは避けたい三隅研次監督の強い要望で、脚本家の星川清司氏がプロデューサーの意に反して原作を変えたこの作品、シリーズ一番の傑作と評されることになったのは何とも皮肉だ。
 その後の後日談で、勝手に原作を変えたことになぜか柴錬から何のお咎めもなかったそうだ。欺くしてシリーズは存続、「眠狂四郎」は大映の名物シリーズとなっていったとか。

三ノ輪橋にある浄閑寺(投げ込み寺)の正門 ↓
三ノ輪橋にある浄閑寺(投げ込み寺)
新吉原総霊塔と吉原の遊女が眠る惣墓
 ↑ 新吉原総霊塔と惣墓 吉原の遊女が眠る惣墓は今はカギが掛かっている

 浄閑寺のHPによると、1855年(安政2年)に起きた安政の大地震で大勢の新吉原の遊女が廓の中で死んだ。その時この寺に投げ込まれ葬られたことがそもそも“投げ込み寺”と呼ばれるようになった由縁だという。

 山谷地域に接する三ノ輪に生まれ育った写真家アラーキーは、大きな下駄の看板が目印だった実家が浄閑寺の真ん前だったそうだ。浄閑寺は子供時代の遊び場で、塔婆でチャンバラしたり、遊女が眠るカギの掛かっていなかった頃の惣墓の中へ下級生を入れるなど等、子どものころの悪ガキ振りをNHKの番組の中で明かしていた。その実家も今や駐車場に。

浄閑寺前にあった荒木経惟氏の実家 投げ込み寺はアラーキーの遊び場だったらしい ↓
浄閑寺前にあった巨大な下駄の看板


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