旧小包跡地の有効利用に関する記事 

 先日、夕刊紙の日刊「ゲンダイ」に山谷の記事が出ていたので気にはなっていた。
 それは「拝啓 孫正義様 山谷ホスピスからの手紙」と題した五日間の連載記事だった。


 ネットで知って夕刊紙を買ったら、山谷でNPO法人を運営する理事長がソフトバンクグループ代表「孫正義」氏へ手紙を送った話から記事は始まっていた。その内容というのは、自己の福祉事業構想を手紙に託し、孫氏へ参加要請を求める内容だった。その計画案は、山谷で生まれ育った者からするととても受け入れられない内容だった。

 清川2丁目にある旧郵政省の東京北部小包集中局跡地を再利用するこの事業計画案は、山谷に地上12階、地下1階の「福祉の最先端タワー」という巨大な“ハコモノ”を造ろうというものだ。
 孫氏とえば経済紙「フォーブス」の長者番付にランクインする資産家。その豊富な資金力を山谷の福祉事業へ提供してもらえないかというのが真相らしい。

旧小包跡地にある建物の看板
旧小包跡地にある建物

 旧小包跡地とは、郵政大臣など国政の数々の役職を歴任した地元の深谷隆司元衆議院議員の肝入りで、台東区が国から27億円で購入した土地だった。浅草の北部地域に1万200平方㍍(約3,000坪)もの区用地があることを、地元の人でも知らない人も多い。実は、台東区と地元七町会とが結んだ5年間の暫定活用の覚書の終了期限が今年度3月末に迫っている。

総泉寺とお化け地蔵

 古地図を調べてみると、その小包跡地の周辺は、曹洞宗の江戸三箇寺のひとつに数えられていた総泉寺という大きな寺があった場所で、その参道に今も現存するお化け地蔵があったことは上の絵からも分かる。

 総泉寺は大正12年(1923年)の関東大震災で被災、昭和3年(1928年)に板橋へ移転してしまったが、元々平安時代の誘拐事件、子(梅若丸)と母(花子)の哀話「梅若伝説」と関係があり、総泉寺の南側には京の都から子を探し求めてきた母が梅若丸の死を知り絶望の末に身を投げたという鏡ヶ池があったという。小包跡地のすぐ近くには築地塀に囲まれた立派な門の中に、エレキテルこと平賀源内の墓があるが、なぜか総泉寺移転後もこの墓だけが山谷地域に残されている。

 ↓ 山谷地域の旧総泉寺跡地にエレキテルこと平賀源内の墓がある
平賀源内の墓

 現在、旧小包跡地のあった建物や駐車場は、観光バスの駐車場や放置自転車の保菅所などとして暫定的に活用されている。また隅田川花火大会や酉の市などのイベント時の臨時駐車場とても使われているようだが、駐車待ちの観光バスがアイドリング時に出す排気ガスやエンジン音による低周波が地元で問題視されているらしい。

 ↓ 浅草で観光する観光客を乗せるバスが旧小包跡地前で駐車待ちの列を…
旧小包跡地の駐車場へ並ぶ観光バスの列
旧小包跡地内の駐車場

 実は、旧小包跡地が台東区へ移管される前から、浅草北部まちづくり協議会や台東区議会議員などから事ある度に跡地のユニークな活用案の意見交換が活発になされていた。
 地元の住民の意見が繁栄されない唐突なプランが出てきたので、過去のいろいろな場で聞いた活用案のいくつかを紹介したい。これは、あくまでも自由な発想の中で出た活用案であって、中には現実離れしたものもあるが、将来の山谷活性化につながる活用案のアイディアの一助になればと思い紹介することにした。


● 橋場⇔浅草を巡る観光実験線「LRT」の車両基地(案)

 LRTとは、無公害の次世代型路面電車のことで、低床電池駆動路面電車の英語読み“ライト・レール・トランジット”の頭文字をとったもので簡単に言えば最新式“ちんちん電車”だ。現在、世界300都市、国内でも富山など20都市で運行されている新交通システムだ。
 このLRTの観光実験線を橋場エリアの一方通行路に走らせ車両基地を小包跡地にしたらどうかという活用案だ。浅草の六区街でプレス発表もされ、ヒノデ新聞などの紙面でも紹介された。うまくゆけば路線を汐入エリアまで伸ばし、さらには都電の終着駅がある三ノ輪橋まで延長出来たらと夢は広がっていった。

 面白かったのは、この案の発信地は山谷ではなく、浅草の商店街連合からだったことだ。しかし、今年1月末に開業した「ぐるーりめぐりん」は、ほぼ同じルートを走っていて、いつの間にか夢は消えてしまった感がある。

 ↓ 北部浅草を走らすLRT観光実験線車両基地案のイラスト
LRT観光実験線車両


● 石浜城再建用地(案)

 昔の石浜という所は、隅田川の入江のような場所だったらしく、場所は今の台東区橋場1~2丁目から今戸1~2丁目辺りのことをいったらしい。この地は、中世の時代に下総の千葉氏一族が武蔵に逃れて最初に築いた城、石浜城があったという。
 また、源頼朝の奥州征討の勝利に際して社殿を寄進したという逸話が残る石浜神社も近くにあったり、白鬚橋辺りは、房総に逃れていた源頼朝勢が隅田河を渡る際に、江戸氏が親族の支援を受けて釣り船数千隻に加え西国船(さいこくぶね)数千隻を揃え、三日間掛けて浮橋を組み、頼朝勢を武蔵の国石浜から王子板橋へ渡らせるのを助けたなど数々の古い歴史がある地でもある。

 ↓ ボストン美術館所蔵の「隅田川筏渡之図」
隅田河の浮橋を渡る源頼朝勢

 何とそこへ石浜城を復活させようというのだから面白い。実は、石垣など石浜城の遺跡はまったく発見されていない。北部浅草の歴史に詳しい人に言わせると、石浜城は城の概念になっている天守閣そびえる造りではなく、どうも黒沢明の映画に出てくるような砦のようだったらしい。

 ↓ 山谷地域の清川に石浜城を建設する夢の(案) イラストは田中けんじ氏
幻の石浜城再建の夢


● 台東区役所移設(案)

 台東区役所を小包跡地へもってくる、つまり山谷へ区役所を移設する案は、かなり昔から、それも複数の台東区議から出ていた活用案だった。小包跡地の南側にある二棟の都営住宅も一緒に一元開発という大胆なプランを考えた区議もいたが、大震災後、一棟は建て替え、もう一棟は耐震補強と決まってしまったそうだ。
 台東区役所移設案の最大のメリットは、数千人の区職員が山谷地域に落とすお金の経済効果が山谷と北部地域を活性化させるということなんだとか。しかしこの案もつい最近台東区役所がリニューアルしたことを考えると実現は難しいだろう。

 ↓ 現在上野にある台東区役所本庁舎ビル
台東区役所本庁舎


● ゴミ処理施設の排熱を利用した温浴施設建設(案)

 台東区には、廃棄物処理場はひとつもない。台東区内で清掃事務所などが収集したゴミはすべて区外へ持ち出されて処理されている。あえてゴミ処理施設を山谷に受け入れ、そこに区民が利用出来る排熱を利用した温浴施設を作るという活用案がこれだ。過去に区役所内に「山谷名水説」を唱える職員もいて、その人に言わせると、山谷は地下水が汚染されていない都内でも珍しい場所らしい。もしも小包跡地の地中深く掘り下げれば良質な黒湯の温泉が出てくることは間違いないだろう。

 10年近く前だったか、近くの高層マンション建設中に予期せず良質な温泉が湧き出し、「南千住天然温泉」と名づけられた。源泉の温度は28.5度。ナトリウム塩化物・炭酸水素塩温泉は、無臭で浴槽の底が見えない醤油のような黒褐色の黒湯である。火山性の温泉とは異なり、古生代に埋もれた草や木の葉の成分が地下水に溶け込むことで出来た温泉、黒湯は鎌倉の辺りから東京湾岸に沿って温泉脈が広く分布してるらしい。体の芯まで温まり浴後も湯冷めしないのが特色で、温泉施設を山谷に造れば、北部地域に住む“後期高齢者”たちの憩いの施設になることだろう。

 ↓ 小包跡地から北へ1㌔程の距離にある南千住4丁目「南千住天然温泉」の入浴施設
南千住天然温泉の入口と掲示物
南千住天然温泉の露天風呂
 ↑ この黒湯の温泉施設は、共同住宅と有料老人ホームの入居者のみが利用出来る


● 江戸芝居小屋の建設(案)

 「日に三箱散る山吹は江戸の華」と川柳で謳われ、江戸市中で日に千両(今の貨幣価値で約一億円位)の小判が動いた三ヶ所の特別な場所のひとつに「聖天町の芝居街」があった。その当時の雰囲気を感ぜられる江戸歌舞伎小屋を旧小包跡地の有効利用として作ったらどうかという案もあった。

 山谷に泊まりに来る人たちは、かつて北部浅草の聖天町(猿若町)に、ニューヨークはマンハッタン島にあるブロードウェイの劇場街のような芝居街があったことを知る人は少ない。そこにあった芝居小屋は、現代の劇場型歌舞伎施設とは大きく異なり、小屋の至る所に役者と観客の一体感を演出する工夫があった。小屋の中の演劇空間には、舞台と観客を近づけ、役者の化粧の香りや息遣いまでも受け止め観客を心底楽しませようとする歌舞伎独特の舞台構造があって、演技の下手くそな大根役者へ抗議の意思表示「半畳を投げ込む」目の肥えた庶民の観客がいたとか。

聖天町の芝居街

 気が付いたら日本人が忘れてしまった、本物の江戸芝居小屋を浅草に復活しようという署名運動が過去にあって、その発起人には十八世中村勘三郎丈を始め、串田和美、野田秀樹、三谷幸喜、立川談志などの著名な舞台関係者が名を連ねていた。そして二天門に近い都立産業貿易センター台東館が有力候補地に上がっていたという。しかしその芝居小屋復活の中心的存在であった勘三郎丈や立川談志師匠も今や故人となり夢はいつしか遠のいてしまった。

 ↓ 「浅草に江戸芝居小屋をつくる会」の10万人署名運動時の芝居小屋のイメージ
浅草に江戸芝居小屋をつくる会

 芝居小屋を吊り橋のない谷に見立て、小屋の空中を元祖ロープウェイともいえる“畚渡し(ふごわたし)”に乗って、主演役者同士が宙乗りで切り合うケレンの場面。平土間に突然複数の橋脚が立ち上がり、東西の桟敷へ橋板が伸びたかと思ったら、あっという間に幕間の小屋の空間に太鼓橋が出来て、観客の頭上に架けられた橋の上を鳴り物に合わせて着飾った役者たちの行列が通る…。
 小屋掛けして木戸銭を取って興行する江戸の芝居小屋では、観客を引き付け飽きさせないため、演技はもちろんのこと衣装から大道具の仕掛けに至るまでド派手に演出されていたとか。そんな江戸芝居小屋が現代の北部浅草にあったら本来の歌舞伎の魅力を知らなかった人たちたはきっと驚くことだろう。

 芝居小屋の正面中央には江戸庶民が期待を胸に、ひとりづつ屈んで通ったであろう「鼠木戸(ねずみきど)」とその左右には「大木戸」と「御用木戸」を再現。観客席上方の大梁に、公演の出演者の屋号の家紋が入った高さ1.2㍍もある顔見世提灯を吊るす「ブドウ棚」を組めば、舞台演出としても舞台だけでなく花吹雪などを観客側まで降らすことも可能になるだろう。
 また、花道にあるスッポンの他にも現在の歌舞伎施設には四国の金村座しか存在しない、舞台と花道が交わる角に役者がセリ出せる舞台装置「空井戸」も設置、さらには昔の芝居小屋にはあった役者が宙吊り状態で演技しながら移動する装置「かけすじ」を江戸時代風に再現したら芝居の演目の幅が広がること請け合いだ。今の相撲場に残っている桝席も造り、縦が「い・ろ・は…」、横が「壱・弐・参…」と席番も昔風に木目調で再現したい。

日本最古の歌舞伎小屋
 ↑ 現代の劇場型歌舞伎施設の概念を越えた芝居小屋(四国琴平町にある金村座)

 しかし今の歌舞伎には何か満足出来ないと思い続けている人たちの中には、これでもまだ物足りない気がするだろう。例えば、今の主要都市にある歌舞伎の劇場はお上品過ぎでは?昔から芝居見物の楽しみのひとつは飲食を伴なった観劇だった。幕の内弁当ということばに名残があるように、歌舞伎小屋は、食事と観劇が一体となって成立していた観劇スタイルで、世界目線で見たら“レストランシアター”形式のとてもユニークな演劇だった。
 新宿歌舞伎町の繁華街にあって、幕の内弁当を食べながらロボットのショーを見物する「ロボットレストラン」には、連日多くの外国人観光客が訪れているという。店のHPを開くと歌舞伎を彷彿する衣装を身に付けた出演者がいることからして、このレストランは江戸の芝居小屋にヒントを得たであろうことは想像に難くない。 

 さらに々、3,000坪ある旧小包跡地の余ったスペースに複数の茶屋も再現、両国の国技館のように茶屋から仕出し自由とし、外国人用に平成中村座NY公演にならい、幕間は日本文化満載の“Kabuki Cafe”で楽しませたりとアイディアを出せと言ったら尽きることがない。そうそう、忘れていたが、歌舞伎座で今外国人に大人気の格安な観劇システムの「幕見席」もぜひ作って欲しい。そうすれば歌舞伎の敷居が低くなることでファンのすそ野も広がり歌舞伎が世界中に認知されるきっかけにになるだろう。
 交通の便を心配しなくても大丈夫。浅草辺りのスーパー堤防にある船着き場を利用して、吉原通いの粋客が乗った山谷船(猪牙舟)を模した江戸時代の格好をした船員が乗る大型船を白鬚橋まで走らせて乗船から歌舞伎の世界に引きずり込んでもらうなども面白いかも。これなら船上のお練りもスーパー堤防から見物可能だ。


● 漫画・アニメの殿堂建設(案)

 過去の麻生政権時代に国立メディア芸術総合センターの設立が予定されたことがあったが、「アニメの殿堂」と批判的な通称名が用いられ他党からの大反対から設立されることはなかった。あえて世界の最先端といえるサブカルチャーの殿堂を山谷に造って、クールジャパンの情報発信基地を造るという活用案だ。

 山谷に泊まりにくる旅行者には内外の漫画・アニメオタクの人たちが非常に多い。外国人ならフランス人を筆頭にドイツ人、スペイン人にアニメオタクが多いような印象を受ける。そのことは「コミックマーケットと山谷の格安ホテル」 のブログページで紹介したことがある。漫画・アニメオタクたちは、お金を落とす目的の場所は山谷以外にあって、「泊まる宿は簡素でもいいから100円でも安い方がいい」という考えの人がほとんどだ。彼らは漫画やアニメ関連の物品に大金を使うので、泊まるところには金は掛けたくないというのが本音だ。秋葉原始め、中野のブロードウェイ、池袋の乙女ロードなど等…。山谷には最低限の消費しかぜず、他の場所で有り金を使い果たすというのが現実だ。

 小包跡地に日本が誇るサブカルヤー満載の漫画・アニメの殿堂をあえて山谷に造るという奇想天外な活用案の詳細は、漫画やアニメグッズの公開オークション会場を作り、PCやスマートフォンなどを使ってオンラインで全世界からオタクたちにがリアルタイムで入札出来るようにしたり、漫画・アニメを芸術と位置づける施設の各階には、新作アニメの試写会場で予告編が無料で見れるような場所や漫画・アニメ関連業者にスペースを格安に提供してテナントになってもらうなど考えられよう。
 中国や韓国がアニメ産業の世界進出を虎視眈々と狙っているのに対抗して、漫画・アニメの若手育成者の学校や支援の場所もあったら山谷の活性化につながるのでは?
 山谷地域の東側に位置する橋場という街は、東京・下町、山谷を舞台にした「あしたのジョー」や荒川区町屋を舞台にした「巨人の星」などの原作者で知られる高森朝雄氏(梶原一騎)が生まれ育った場所だし、漫画「孤独のグルメ」第一話の舞台も日本堤の「きぬ川」だ。山谷と漫画は何かと縁がある。

漫画・アニメのイベント用カタログ

 夕刊紙に書いてあるように山谷は「スラム街」なんですかね?すでに充分「福祉タウン」になっていませんか?山谷がこれ以上福祉タウンになれば、貧困ビジネスをたくらむ輩も大勢集まってきそうだ。そして他の地域から問題行動を起こす人間を山谷へ“姥捨山”のように丸投げするようになったら、普通の街に戻すことがさらに困難になってしまだろう。警察や救急病院は絶対に必要だが、自宅の隣は嫌だというのが人間の正直な気持ちだろうし、今以上山谷だけが福祉の街である必要性があるのか疑問です。
 偶然にも近代日本の格差と最下層社会を研究している研究者の方が泊まっていたので、この記事に付いて聞いてみたら、山谷はスラム街ではなく「福祉の街」で、福祉よりも「生活保障」にウエイトがある街ではないかと言っていた。さらに、地域住民の意思を無視してまでも資本投下したら、地域の固有性を根こそぎ無にしてしまうのでないかとも語っていた。

 エアコンと無料液晶TVが付いた約五畳半の個室に入れて、食事も三食付きで、しかも和食、洋食チョイス可能。さらに女性ソーシャルワーカーの介護も受けられる。仮に生活保護受給者であっても個人負担はゼロ。こんな立派な終末医療なら誰でも受けたいと思うだろうが、3,000坪もの土地に巨大な福祉ビルを建設すれば、結局とんでもない金額の固定費と運営費がかさみ、毎年巨額の寄付に頼らねばならなくなるのでは?
 五日間延ばし延ばしの連載記事の最後には、記者がソフトバンク社へ問い合せたところ、「この事業計画は弊社とは関係がありません」(広報課)として「事業計画案の手紙は理事長に返送された」と記事は締めくくられていた。

  
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